夕暮れ色の君


『あら、栞(しおり)。もう、出かけるの?』


「うん」


『そうなの。出かけるときには、「いってきます」くらいは言ってね。

何も言わずに行っちゃうと、お母さんびっくりしちゃうから』


「…うん」



親にまで愛想が悪い私は、本当に親不孝ものだと思う。



中学のときは「いってきます」を叫ぶように言ってたあたしなのに、

今ではその挨拶を何度も忘れるほど。



その変わりようを知っていながらも、あえて何も言わないお母さんは優しい。



「いってきます」



そんな優しいお母さんに、一つのお礼もできないあたしは、なんてダメな子供なのだろう。



こうして、あたしの枯れきった一日が始まる。


< 3 / 85 >

この作品をシェア

pagetop