夕暮れ色の君


蒼さんはあたしを立たせたものの、それからずっと笑ってるだけで、行動する様子は見られない。



不可解に思ったあたしは、意を決して声を掛けてみる。



「蒼さん…、」


『んー?』


「何か、あたしに用事ですか…?」



そのあたしの言葉に、蒼さんはああ、と思い出したように手を叩く。



…ってことは、今まで忘れてたのか。

蒼さんって絶対に天然だ。



『もーいっかい、自己紹介、しようと思ってて』


「自己、紹介…」


『最初の出会いは、僕だけの一方的だったでしょ?

だから、仕切り直し』



じゃあ僕からねー、なんてあたしの言葉を全く聞かずに話そうとする蒼さんは、

最初の時よりも、一方的だと口を尖らせたくなったけれど。



心底嬉しそうに笑う蒼さんが、素敵だったから。



…ま、いっか、なんて思ったのは、蒼さんには内緒だ。


< 53 / 85 >

この作品をシェア

pagetop