夕暮れ色の君


『しーちゃん、今日何か俯いてばっかだね?どうしたの?』



洞察力の鋭い蒼が、あたしの様子に気付かない訳がなく、あたしの顔を覗きこみながら、言う。



「…何でも、ないよ」


『そ?せっかく、しーちゃんに新しい帽子見てもらいたいのに、しーちゃん俯いてばっかりだもん』



むー、と頬を膨らませながら、蒼がくるんと帽子を回転させる。



…一般人には手が出せないと有名なブランドの、スタイリッシュなキャップ。

顔が綺麗で、服のセンスも素敵な蒼には、似合わないはずがない。


むしろ、歩いてたらモデルのスカウトが絶えないだろうと思う。



…だけど。



「…ねぇ、」


『ん?』


「蒼は、あたしと会う時いつも帽子を被ってるよね」


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