夕暮れ色の君


「っ…!」



あたしは、ぱっと瞳を開いて、まだ近い距離にある蒼の頬を手のひらで思い切り叩く。



蒼の綺麗な顔が、赤くなっていることも。

その表情がひどく困惑していることも、気付いていながら気にしないふりをする。



…だって、唇は。

キス、だけは。



「さい、てーっ…」



“あの人”が遺した、最後の温もりだったから。



『…しーちゃん、ごめ…』


「だいっきらい、大嫌い!蒼なんか、嫌い!最低、だっ…」



そんな罵声を散々蒼に浴びせて、あたしは全力で走り出す。


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