夕暮れ色の君


…本当は。

蒼は〝最低〟なんかじゃ、ない。


蒼よりも何よりも、一番〝最低〟なのは、あたしだ。



蒼にキスされて初めて、“あの人”のことを思い出したのだから。


それまであたしは“あの人”を忘れてしまっていたのだから。



だけど、そのことを認めたくないから。
その現実を見たくないからと、逃げて蒼のせいにするあたしは、狡(ずる)くて卑怯者だ。



「っ」



やっぱり、後ろめたさが残って、

きっとあたしの後ろにいるだろう蒼に、今からでも謝ろうと振り向く。



…その瞬間、信じられないものが瞳に映る。



「あお、い…?」



ふらついた蒼の膝はがくっと折れて…、

アスファルトに、倒れ込んだ。


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