夕暮れ色の君


そんなあたしに、夕暮れ色の彼はほんの少し微笑んで、あたしの方へと向かってくる。



あたしは、そのまま動けずにまだ棒立ちのまま。



やがて、あたしと彼の距離が数メートルになると、彼は立ち止まった。



『…蒼、だよ』


「え、」


『だから、僕の名前。君、僕の名前知りたかったんでしょ?

山内蒼(やまうちあおい)、これが僕の名前』


「え…あ、はい」



確かに、誰か聞いたのはあたしだけど、いざ本当に名前を言われると、戸惑ってしまう。



あたしは、蒼、と名乗った彼をもう一度見つめた。



…やっぱり、“あの人”に似ている。



というよりも、“あの人”が目の前に立っているように見えてしまう。


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