本当の恋に 気づいた日

「……」


あたしが絶句していると、佐藤はこう言った。


「斉藤を傷つけるようなこと言って、ごめん。…でも好きだから…相手が俺じゃなかったとしてもアンタには幸せな恋愛をして欲しい。………だから、兄貴は……」




幸せな恋愛…って……。



「……あたしは、幸せだよ…」



「…何でだよ!…二股かけられてどうして幸せなんだよ!!」


…分かってるけど、胸が痛い。


「…っ……だって、ずっと前からの片思いの相手に付き合ってもらえるんだもん。…あたしは、幸せだよ」


自分に暗示をかけるようにそう言った。


そうでもしないと、この胸は壊れてしまうから。


「……っ!!」



「世間一般的には、あたしの置かれている状況は……っ…幸せって言えないかも…知れないけど…、あたしにとっては、幸せなの。あたしの『幸せ』の定義は部長と一緒にいることだから……っ」


また、涙がにじんできた。



あたし、どうして最近こんなに涙もろいんだろう。


……前まではこんなこと無かったのに。



恋をして、弱くなったのかな……。





フワッ





「え?」



目の前が急に暗くなる。



あたし、抱きしめられてる…?



「俺の方が、幸せにしてやれる」



耳元でささやかれた甘い言葉。



そして、体が離れた。



「悪い、変なこと言ったな。……でも、本当に、俺は待つから…。っつーか、奪いに行ってやりたい」



「……佐藤…」



「風雅…って呼んでくれないか?」



「……だって、あたし達……」


あたしの言おうとした言葉をくみ取ったのか、佐藤はこう言った。


「恋人じゃ無いけどさ。ダメか?」



「……分かった」



「…それじゃ、またな」



「うん……」



とりあえず、部活に行かなきゃ…と、ぼんやりとした視界と思考の中で思った。
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