かたつむりの恋心
「文芸部員は来たい時に来たい奴が読みたい本を読む。書きたいものを書く。それだけだ。べつに、怖くない」

悪くないだろ。と言ったとき、初めて彼が笑ったような気がした。

「傘もある。」

紺色の折りたたみ傘がずいっと差し出された。

「でも……」

「俺のじゃない。」

だから怖がらなくていい。と彼は言った。

べつに怖がってなんかいないと言いたかったが、いまいち本当に聞こえなさそうだったのでやめた。

「もう卒業した先輩のものだ。まだまだある。」

だからまた借りに来い、と彼は言った。
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