記憶 ―惑星の黙示録―
私はそんなアランを見て、息を殺していた。
きっと、
もう触れられない…
舟の上でのアラン。
触れなかった、
宙を掴んだ手の先。
その感覚が私の頭を過っていた。
…今、
私が呼吸を大きくしたら。
その息から生じた些細な風に吹かれて、消えてしまう…
そう思う程に、
アランの姿は儚く見えた。
そんな私の心を、
アランは知っている。
アランは、
悲しそうに「笑った」。
「…奈央っ…奈央は状況を判断して…冷静に動けるっ…。だから…言っておく…」
私だけに聞こえる声の大きさで、唾を飲み込みながら必死に話し出すアランに…、
…嫌な予感がした。
「…心では…人一倍っ…感情が豊かなくせに、自分の為、周りの為に…冷静を…装える、…ね?」
やっぱり、
…嫌な予感は、
大きくなっていった。
「…俺の、胸を見てっ…」
悲しく笑うアラン。
言われるままに、
その風景を通す胸を見る。
――胸の中心。
風景を通さずに「在る」のは、
一点の、
「紫色の光」――…
親指の爪程の、
小さな小さな…光の塊。
そこだけが、
風景を通してはいなかった。