サナギとセカイ
「で、何の用だっつの?セクハラしに来ただけだったら、マジで油にダイブさせっからなオッサン」


ようやく持ち直したオッサンに、私は腕を組んで不機嫌な視線を向ける。

親指をくいっと油の方に向けると、オッサンは床に正座させられたままの格好で子犬みたいに震えだした。

似合わなさ過ぎて、不快だ。


「いや、何度呼んでも反応が無かったからな、つい」

「つい、何だよ?あ?テメーは返事しなかったら痴漢行為に及ぶのかっつの?」

「まぁ、その、何だ?俺には、そうだな、としか答えられんな」


何でドヤ顔してんだよ、このオッサン。

何でバイトに正座で説教されてんのに誇らしげなんだよ。

どんだけスケベなんだよ。


「私は仕事に集中してたんだよ。で、肝心の用件は?」

「おお、それだ!ついつい、お前の尻の感触で失念してしまっていたぞ」

「ぐぐぐ…」


ハハハと高らかに笑うオッサンに、私は殴りたくなる自分を抑えるので精一杯だった。

ここで相手にしたら、話が進まなくなる。

我慢、我慢だ私。

そうだ、取りあえず手元にあったドーナツでも握り潰して堪えよう。


「いや実はな、舞子からの言伝があったのを忘れていてな」

「マイから?」


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