Alice Doll
第一章
***



 昔から男は人形が好きだった。いや、執着していたという表現の方がピッタリくるかもしれない。
 小さい頃から彼は人形と名の付くものはコミカルなキャラクターものであれ、マネキンであれ、何であれ、自室に集めては満足していた。

 自分の部屋で足りなくなったなら、次の部屋を、それでも足りないなら次を。そうしてどんどん人形は増え続け、今や至る所人形しかいない。
 他人が見ればただ気味が悪いだけだが、彼には天国ともいえる。


 幸いにして、彼の家は裕福で敷地も広い。そのため彼のそんな滑稽とも言える収集癖を指さして迷惑がる者もおらず、彼はただの噂として処分されたにすぎなかった。



 そんな彼が噂から、現実のものとなって姿を現すようになったのは、ここ一年ほど前だ。

 人形が一斉処分されたのだ。


 燃えるゴミの日に袋十何個分……いや、何十個分というおびただしい数の人形の入った袋が、彼の屋敷の前に放り出されるようにして置いてある。
 それは奇妙、その言葉そのものでしかなかった。

 近隣住民にとって『なぜ』とか『どうして』などの疑問は二の次だった。噂が形とともに現実に姿を表したのだ。彼らの興味は無論そちらに傾く。
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