ホタル
プロローグ




……………


「ホタルみたいね」


彼女は言った。

決して高くはないその声を彼女は好んでいなかったが、中性的なハスキーボイスが僕は好きだった。

もし彼女が誘拐犯でその声で「ついておいで」なんて言われれば、僕は迷わずついていくだろう。

そんな魅惑的な声で呟く言葉に、「どういう意味?」と問いかける。

伏せた目には二重のラインがくっきりと現れていて、込み上げる愛しさを押さえきれずにそっと髪をすくう。

僕の最大限の愛情表現だった。


「ホタルって、闇の中でそっと光るでしょ?ふっと光っては消えて、光っては消えての繰り返し。もう二度と光らないんじゃないかってくらい弱々しくて儚い光りで......幻だったのかな、なんて思っちゃうの」

染めているのに決して傷んでいない綺麗な髪を何度かすくうように撫でて、僕は呟いた。


「.....俺達の恋みたいだって?」



彼女が視線を上げた。

上目遣いになっても二重のラインはくっきりとしている。

眉を八の字にして少しだけ寂しそうな色を見せたが、それを見られない様にすぐに僕の胸に顔を当てた。
シーツの隙間から手を出して僕の背中に腕を回す。



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