ホタル
「今家、あたし達だけ?」
「あ、はい。もうすぐ佐知子さんが夕食のお手伝いに来て下さると思うのですけれど......」
「そっか。じゃあ今日は和食かな」
「今日は旦那様も奥様も帰られるみたいですので、喜ばれるでしょうね」
佐知子さんはお母さんより少し上のお手伝いさん。和食が得意で、佐知子さんが夕食担当の日は必ずと言っていい程和食なのだ。
今日は魚かな、なんて考えていたあたしに、紅茶を運んできてくれた梨華さんが時計を見ながら呟いた。
「でも今日は、珍しく裕太さんが遅いですね」
あたしの事はみんな「お嬢様」なのに、裕太は「御坊っちゃま」じゃなく「裕太さん」なのだ。多分裕太がそう呼んで欲しいと言ったのだと思う。
でも今はそんなことどうでもよく、あたしも時計を見ながら本当だと思った。
時計は5時半。今日は裕太はテストの日で、午前中には学校は終わっているはずだ。
裕太はテスト週間、テストが終わったらまっすぐ家に帰ってくる。夕方まで帰ってこないことなんか、今まで一度もなかった。