【完】白い花束~あなたに魅せられて〜
『…嫌だ』
「大丈夫だよ。ちゃんと教えるから」
にこり笑う榎本海斗に虫唾が走る。
何を考えているのか、ニヤリと不気味な笑みを浮かべる榎本海斗に背筋が凍りそうになる。
つかつかと私に近寄って、私の身体に触れようとする榎本海斗をパシンッと叩いた。
『…近寄るな』
それは自分から出た声だとは思えない程低いもので、ガミさんが目を見開いているのが榎本海斗の肩越しに見えた。
「仁菜ぁー!ドラマ決定おめでとぉ〜」
嫌な雰囲気が漂う事務所に亜美奈が入って来たことにより、その流れは一瞬にして亜美奈のほんわりとしたものに変わる。
ガミさんはハッとして「…もう決定してるから」少し申し訳なさそうな顔をして、亜美奈と話し出した。
目の前の視界に入れたくもない男も“礼儀正しい榎本海斗”に戻って、亜美奈の後から入ってきた珠璃にお茶を出していた。
私は台本を眺めて、また散りゆく桜に視線を戻す。
だけどさっきまでと違って、私の目には桜が泣いてるように見えていたんだ。