いつもと違う日
予兆
あれは夏休みに入る直前、
中学の期末テストも
午前中に終わって、
友人たちと
長期休暇の計画について
話し合いながら
家に帰った日のことです。

一年前に
引っ越してきたばかりの
マンションの前で
友人たちと別れた私は、
今日も管理人のおばさんに
挨拶をしようと
事務室の小窓から
中を覗いてみました。

早く帰れる今週のこの時間は、
おばさんとちょっとした
短い挨拶を交わすのが
習慣になっていたのです。

「こんにちは」

私はいつものように
軽い口調で
呼びかけてみました。

そして次のタイミングで
おばさんの返事が
あるはずなのですが、
今日は誰もいません。

いつも
綺麗にされている机の上には、
よく判らないノートやら
ファイルなどが散らばっていて、
急いで何かを調べたような
形跡が残っています。

緊急の用事でも
できたのでしょうか。

今週の小さな習慣が
達成できなかったことに
少し残念な気持ちを残して、
私は仕方なく
エレベーターの方へと
足を進めました。

するとそのとき、
最近の聞き慣れた声が
私の背後から
肩の上を抜けていきました。



< 1 / 9 >

この作品をシェア

pagetop