唐女伝説
 その夜。小助の母くまが、
「間違いの無いように」
 ということで小助の家に泊まりに来てくれた。くまは女の美麗なる面相に、
「まあ、どこぞの姫様かね」
 と感嘆し、
「これは小助や、嫁を神様が授けてくださったんよ」
 と楽天家らしく、阿呆な事を言っていた。
「そんな馬鹿な」
 小助は鼻で笑っていたが、その二重のくっきりとした瞼の下の焦点は、すやすやと寝静まっている美女の顔面に注がれていたのである。
 それから二日後の昼前、小助が漁を終えて帰宅してみると、女が目覚めていた。
「小助や」
 くまが困惑の体で小助を土間の隅に誘った。
「何時目が覚めたん?」
「一刻程前。そんなことよりあんた」
 くまは声のトーンを落とすと、
「あの女は唐人みたいよ」
 と言い放った。
「そうか。聞いたん?」
 くまは首肯すると、
「言葉は全然喋れんみたいやから、良玄先生に来てもらって、筆談てゆうことになって。先生が生国を尋ねたら、唐の国って答えたんよ」
 と早口で捲し立てた。
「へえ」
 小助は予期こそしていたものの、改めて母の口から伝えられると、喫驚してしまった。
女の端正な右側面に目をやると、女と目が合った。
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