不器用な僕等の唄を


語っても、何もないと思った。

けれど、言わないと気持ちの整理がつかない気がした。

野田ちゃんは、静かに相槌を打ってくれる。

「『あんた佐々木紘波?』って聞かれて。その時から透子は偉そうだったし、言うことは酷いことばっかり。」

「うん。」

「でも、恨ましかった。敷かれたレールの上を歩かなくて良い、自分の好きな道を歩ける透子が。」

布が擦れる音。
窓の外では、ここの夜の街が起きている。

「…うん。」

「これは透子の話だけどね、今の母親は父親の再婚相手で。実の母親は、あまりにも素行が悪くて親に勘当されちゃって。」



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