カラス
カラス
この世の中に希望なんてどこにあるんだ?


男は道端に横たわるカラスにそう言われた気がした。


街の真ん中を貫く片側六車線の道路。
その真ん中にカラスは横たわっていた。


黒いそれはまるでぼろ雑巾の様。

車に轢かれただろう
その哀れな姿を

男は街角に立ちじっと見つめる。


こんなにたくさん人がいるのに
知り合いなんて数えるほどしかいないこの街。

ビルの壁が立ちはだかって
息苦しさしか感じないこの街。


カラスに哀れを感じているのは
周りで男だけのようだった。


皆一瞥もくれず
足早に遠ざかっていく。


次々と通り過ぎる車。

その僅かな間から
カラスの姿が見える。

やがて大きな観光バスが
カラスの目前に迫ってきた。

やがてあのバスがカラスの
生きていた痕跡すらも残さず

哀れな体を引き裂いてしまうだろう。

男はそう思った。

バスがいよいよカラスに迫ってくる。

その時男は見た。

カラスは一瞬くちばしを動かし
折れた翼を動かした。

カラスは目を見開きバスを見る。
なんとか死から逃れようとする必死の姿。


「無理だよ…」


男はつぶやいた。


やがてバスは走り去り
後には何も残すこともなく

カラスは消え去った。


死んだという表現より
消え去ったという表現が

ぴったりとくるカラスの最期。


男は歩き出した。



男は歩みを止めることはない。



あのカラスのように
翼が折れ

この街から痕跡も残さず
消え去るまで

男は歩みを止めることはない。


だってこの街には
希望なんてありはしないんだから。





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