ティーン・ザ・ロック



目が合うと口を開くが、またすぐに目線を反らし、口の中でモゴモゴと声にならない音を発する兄にイラつく。



「ちょっと…。言いたい事があるなら言ってよ。


そのテンションのおかしさは、何かあたしに隠してる事があるからじゃないの?」



ただ、いつもの兄に戻って欲しかっただけだった。




それなのに…まさか今度はあたしがおかしくなる番になるとは。



あたしが話を聞いてやると言った途端、ぱあっと顔をほころばす兄。



「じゃー…言うけど…。驚くなよ?マジで」



「良いから早く言って」



「えっとぉ………」



…………………



……………まだだろうか。




いい加減にしろと口を開きかけた途端、忘れていた名前が兄の口から飛び出てくる。



「留美ちゃん……って、イイ子だよなー……」



「…留美…?」



これは…マズイ。


母が生前教えてくれた事を思い出した。男がいきなり女の名前を出す時は、その女に気があるのだ と。



それが正しいかどうかは分からないが、兄が留美を『イイ子』などという理由はそれしか思い当たらない。



今まではあたしがそれとなく妨害してきたが、今や兄は完全フリー。留美や他のオンナが兄を付け狙おうともそれを邪魔をする妹など居ないのだ。



もしあたしの知らない所で留美が動いていたとしても、もうあたしには口を出す権利などない…気がする。



でも…それでも、だ。



嫌なものは嫌だった。




< 89 / 337 >

この作品をシェア

pagetop