ハルジオン。
二年前、父親が死んだ。

高校の卒業式を間近に控えた、ある寒い日の朝だった。

ロクでもない親だった。定職にも就かず、毎日酒ばかり飲んでは暴力を振るう。こんな奴居なくなればいいとずっと思っていた。

だから、寂しくなどなかった。ざまみろとさえ思った。


達也は卒業を機にこの町を捨てた。

頼る宛があったわけじゃない。
たいした荷物もない。

財布だけをズボンのポケットに押し込み、小さな無人駅のホームで二両編成の列車のタラップを踏んだ。

「遠くへ行こう」

あの日、達也は車輪を軋ませて動き出した列車の窓から、もう二度と見ることはないであろう田園風景を眺めていた。


何の感傷もないと言えば嘘になる。
十年近く暮らした町だ。

けれど、この町を故郷だなどとは、どうしても思いたくなかった。

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