ハルジオン。
「心配いらん。結局そうはならんかったんじゃからの」

房子は涙をにじませ、夕日に染まる坂道を遠い目で見下ろした。

暖かい夕陽が山の稜線に見える。

――ゴーン、ゴーン

と、どこかで寺の鐘が鳴った。

夢で見た、母がよく遊びに行っていたという住職の寺かも知れない。



「……ちょうどあん時も、今日のような夕焼け空じゃった」

房子は掠れる声で呟いた。

それから、ポツリ、ポツリとその時の出来事を話し始めた。

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