ハルジオン。
息子の華奢な手を握る。

「たっくん」

「なあに?」

「……ううん」

何でもない、と抱きしめる。


――ゴーン、ゴーン……

寺の鐘が日暮れを告げる。

夕焼けの中、椿の木で羽を休めていた雀たちが一斉に飛び立っていく。

その小さな飛影を、逸子はいつまでも見上げていた。

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