ハルジオン。
別に急ぐでもなくシャツに腕を通し、デスクの上に無造作に放り投げていた財布や時計を掴む。

その中に一枚の写真が混じっていた。

達也はその色あせた写真を見つめ、胸ポケットにしまい込んだ。


昨夜、タイムカプセルを掘り起こした後、達也は隣り町に一軒だけある安ホテルで一夜を明かした。

もちろん、長年父と暮らしてきた家があるにはあった。

が、一度出た家だ。電気も水道も止まっているし、二年も手つかずのまま放置しているのだから、埃まみれで眠れるはずもない。

何よりもう、あの家には帰りたくなかった。

靖之は「うちにおいでよ」としつこく言っていたが、到底そんな気にもなれなかった。

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