剣と日輪
 で第十三回日本芸術院賞を受賞したことをべた褒めし、動物画が多い杉山に、
「動物がお好きですか」
 等と水を向けたりした。
 杉山は今年四十九になる。梓と姿(し)容(よう)が酷似(こくじ)していた。黒縁眼鏡(めがね)で、公威よりも小男で枝みたいに細い。瑤子の母元子も背が低くでっぷりと肥え、瑤子に瓜二つだった。
 公威のおべっかについ絆(ほだ)され、杉山は昨年から担当している
「文芸春秋」
 の表紙絵の苦労話をしてくれた。公威が、
「先生の絵筆の出来で、我々の懐(ふところ)具合(ぐあい)も決まるかもしれない」
 と持ち上げると、
「いえいえ、逆ですよ。毎号執筆してください」
 と日頃滅多に人を誉めない杉山が、紹(しょう)興(こう)酒に酔いながら、談笑している。
 公威は急に無表情になり、
「今鏡子の家という一千枚の長編を構想し、書き始めています。これから多忙になると思いますので、できれば来月にでも御嬢さんをいただきたいです」
 と元官僚らしい淡々(たんたん)とした口(こう)気(き)で、結婚の申し込みをした。
「来月?」
 杉山夫妻も瑤子も、公威以外は仰天(ぎょうてん)した。公威は平(へい)心(しん)である。胸を反(そ)らせていた。
「気に入った。早速結納しようじゃないか」
 画伯は瑤子に、
「お前は三国一の花婿(はなむこ)に恵まれたぞ」
と杯を差し出し、紹興酒を飲み干した。
「娘を頼みます」


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