剣と日輪
 頭を下げる画伯に梓も負けじと、
「息子を宜しく」
 とテーブルに両手を着いた。
「三国一の花嫁に乾杯」
 公威が音頭をとると、来席者はグラスを合わせあった。
「三国一の夫婦に乾杯」
 あつ子がとりを取ると、再びグラスをぶつけ合う鳴(めい)響(きょう)がした。
 五月九日に結納(ゆいのう)が交わされ、六月一日に明治記念館に於いて、公威と瑤子の結婚式が挙行された。披露(ひろう)宴(えん)は麻布国際文化会館で開かれた。媒酌人(ばいしゃくにん)は、川端康成夫妻である。川端はモーニング姿の公威、若くてチャーミングなウエディングドレスの瑤子と接見(せっけん)し、二人を悦愛(えつあい)した。
 あつ子のボーイフレンドで、後にあつ子と結ばれる司会のロイ・ジェームスの軽妙な語り口に列席者は大笑いし、川端の師弟愛溢(あふ)れるコメントを感賞(かんしょう)した。宴(えん)筵(えん)は日本庭園とリンクし、カクテルパーティー形式だった。
「いい家庭を築こう」
「ええ」
 公威と瑤子は饗宴(きょうえん)下、そう約誓(やくせい)した。
 文壇の旗手公威と、画壇の雄杉山の愛娘の合一は、日本芸術界の輝光(きこう)だった。大勢の文化人に祝慶(しゅくけい)され、二人は新婚旅行へと旅立ったのである。

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