剣と日輪
 を思わせる帝都の夜景を鳥瞰(ちょうかん)していた。
(これは共産主義者、無政府主義者達の二・二六事件だ)
 公威は幼心に衝撃を受けたあの決起を回憶(かいおく)したが、直ぐに打ち消した
(あの事件の首謀者である皇軍将校には、愛国心があった。眼前のこの暴徒には、愛国心は無い。日本はソ連の一社会主義共和国になればよいと願っている者か、国家を呪う連中だけだ。全然中身が違う)
 公威は数十万の共産主義革命の分子達の示威(しい)行動に、危機感を募らせた。
(奴等は暴力で日本を奪おうとしている。日本を守らねば)
 公威は肌でそう実感せるをえない。公威は岸の人物は別として、岸の孤高のバトルを支持している、
「サイレントマジョリティ」
 の一人である。
「議会制民主主義を守れ」
 と朱書(しゅが)きされたプラカードが浮いている。
 可笑しなスローガンであった。民主主義の対極に位置する共産主義者が、民主主義者の国アメリカの手先である岸自民党に対し、
「民主主義を守れ」
 と直訴(じきそ)しているのである。
(意味が分からない)
 公威は、
(この騒動の果てに、日本は何処へ向うのか)
 と憂(うれ)いた。
(これから益々日本は、共産主義の脅威に曝されていくだろう。共産主義者には歴史も今迄の価値観も、宗教も、個々の自由も保守反動としか映らない。若しこの群衆が日本を牛耳ったなら)
 公威には灰色の日本の景況が予測できた。其処には強制収容所が在り、皇室一家は皆殺しにされ、ブルジョワは迫害されて、収容所に送還される。野坂参三は日本のスターリンとなり、国民の人権は圧殺される。経済成長はストップし、ただ軍事産業のみが重く人民に圧(の)し掛(か)かってくるのである
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