剣と日輪
「男の涙」
 を体魄(たいはく)とする事ができた。
(こいつ等にも同じ体験をさせてやろう。そうだ。国土防衛隊への入隊資格に、自衛隊の体験入隊を必須としたらどうだろう)
 公威は妙案に目を細めながら闘士の卵達に、
「諸君の北海道北恵庭駐とん地への体験入隊を防衛庁に打診し、内諾を得ている」
 と告げた。
「恵庭ってあの恵庭ですか」
 必勝がくこうしている。公威は真正面から必勝の波光を浴びた。
「そう、あの恵庭事件のあったとこだよ」
 恵庭事件とは五年前の十二月に、北海道で起きた騒動である。
「陸上自衛隊島松実弾演習場の実弾訓練の音がストレスとなって、飼育している牧牛の乳の出が悪くなり、出産頭数も減って、損害を蒙った」
 と隣の恵庭町の牧場経営者が自衛隊に難癖(なんくせ)をつけ、陸上自衛隊の演習用通信線を切断したものである。
 牧場主は自衛隊法の防衛用器物損壊罪に当るとして起訴されたが、今年三月札幌地方裁判所は無罪判決を下した。これ程自衛隊を虚(こ)仮(け)にした事件はないだろう。
 必勝は、
「非国民野崎兄弟ってどんな面なのか、見て来てやろう」
 と心既に恵庭に飛んでいるかの如く、うきうきしている。
 必勝の天真爛漫さに引かれ、
「これからの北海道はいいぞ。避暑にもってこいだ」
 だの、
「国土防衛隊の船出を祝って、豪勢に飛行機で一っ飛び、ていうのはどうかな」
 といった景気のいい話がぼんぼん出た。

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