剣と日輪
 両挙兵共純真な、
「憂国」
 以外の政治的野望を持たない、大和魂の発露(はつろ)だった。
 殊に、
「神風連」
 は古来の武器である日本刀を主武器に、近代化された熊本鎮台の兵舎に斬り込む、という離れ業をやってのけた。彼等の、
「猛(もう)志(し)」
 こそ公威の目指すものであり、勝敗など現(うつつ)の夢幻(むげん)に過ぎない。
「精神」
 こそ永久(とこしえ)の命(めい)根(こん)なのである。イエスは刑死して不朽の教えを残し、吉田松陰は斬首されて、維新回天の根幹(こんかん)となった。
(俺は日本の生霊となる)
 公威はその道心を高める日々の中で、朦朧(もうろう)たるゴールの後姿を追走していた。

 必勝の日常は、バンカラなイメージの早稲田の学生そのものである。必勝は二月に春休みで帰省した際、鈴鹿スキー場で転倒して右足を骨折し、四日市の自宅で養療していた。
「折角休みを謳歌(おうか)しようと思っていたのに」
 必勝はすっかりくさっていたのだが、日曜日に或る女性が見舞いにきてくれた時には、
(おお、骨折も悪くないなあ)
 と朗(ろう)包(ほう)が撓(しな)った。
 ファーストラヴの人、上田牧子は必勝の心を弾ませた。牧子は必勝と同年で、四日市高校卒業後、地元の大企業でOLをしている。どことなく少年の未熟さが濃厚な必勝には、バレーボール部だったすらりとした肢体の牧子が、大人の御姉さんに映輝した。



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