剣と日輪
 翌日は豪雨後晴天となった。必勝は新宿駅東口で、全日本学生国防会議議長としての活動を始めた。駅頭演説と機関紙配りに明け暮れた。午後四時過ぎ、必勝は情報宣伝隊を抜け、一ツ橋大学日文研主催のシンポジューム会場に現れた。公威がそこで講師を務めていたのである。
 シンポジュームの閉会を待って、必勝は公威の控え室の戸を叩いた。公威は、
「おお、来たか」
 と両腕を広げた。
「昨日は皆感激致しました。三島さんの御恩は生涯忘れません」
 必勝は学生服の身形で、公威に御礼を述べた。公威は、
「がはは」
 と照れ笑いした。
「格好よかったぞ。学生達のリーダーとしての自覚を持ち、救国活動に邁進したまえ」
 と両肩をつかんだ。
「はい。これからもご指導ご鞭撻の程お願い申します。何処までも付いて行きます」
「中々口上も上手くなったな」
 公威はからからと高音を上げ、
「志士というものは体でものを言うのだ」
 と付け加えた。
「はい。分かりました」
 必勝も笑い返す。何処までも翳(かげ)りのない師友であった。

 六月十五日、東大安田講堂を医学部全学闘争委員会が占拠し、東大闘争が始まった。公威等祖国防衛隊員は、
「山本一佐から教わったゲリラ戦法が、遂に日本に上陸したのだ」
 と身震いした。
「警察は共産ゲリラに対抗できうるか」
< 238 / 444 >

この作品をシェア

pagetop