剣と日輪
 午後十一時過ぎ、公威は楯の会隊員に、
「赤坂の拠点に集合せよ」
 と指令を発した。山本一佐は、
「新宿を不法占拠していた学生や労働者達が、散会し始めた」
 という報に接し、
「暴徒達は新宿を放擲(ほうてき)し、散り始めている。最早自衛隊の治安出動はありえない。本日の主眼である街頭に於ける演習は、無事終ったと見るべきでしょう」
 とテレビの報道に齧(かじ)り付いている公威に、提言した。
 公威は不満だった。できればこのまま楯の会隊員に、実戦を体験させたかった。が、テレビのニュースは、騒動が治まりゆく惨憺(さんたん)たる夜の新宿を映し出している。
(不甲斐ない奴等だ)
 公威は敵の軟弱さに気が滅入った。
(こんなに情けない奴等だとは、思わなかった)
「総括を行いましょう」
 公威は心中穏やかでなかった。何もかもが気に入らない。山本一佐にも、
(自衛隊は所詮、政府の犬に過ぎない)
 と不愉快だった。
(楯の会は違う。独自の判断力を持つ。訳の分からない命令には屈しない。例えば山本一佐は若し共産党が与党になったら、その命令を聞くだろうが)
 公威は鎮静されゆく、戦塵もうもうたる新宿の中継映像を見遣った。
(楯の会は、彼等共産主義者が例え与党になろうとも、その命には服さない。クーデターを起こす)
 公威は、
「国立劇場へ移動するよう隊員に伝えよ」
 と持丸学生長に厳命した。
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