剣と日輪
 山本一佐は公威が自衛隊に満足していない気配を察知し、
(何れ自衛隊と楯の会は、訣別するかもしれない)
 と予感したのだった。
 
 公威は国立劇場で隊員と、
「国際反戦デー」
 に対する意見、見聞を交換し合った。隊員達は一様に、機動隊の手緩(ぬる)さ、装備の未熟を憂慮した。共産主義・無政府主義団体構成員だけではなく、新宿駅に焔(ほむら)に集まる蛾の如く噴出し、非道の限りを尽くして、
「騒乱罪」
 で検挙された不平分子達(逮捕者は延べ七百三十四名に及んだ)も今後、
「対象」
 とせねばならない、といった鋭い必勝の指摘も出た。
 公威は最後に、こう纏(まと)めた。
「我々は自民党政府に、今後期待できないことが分かった。選挙によって選ばれた自民党政府は、結局は世論に擦り寄らざるを得ないからだ。我々は違う。二十年の浅墓な歴史しかない民主主義、即ち衆愚政治におべっかを使ういわれはない。二千六百有余年の伝統を持つ日本こそが、我々の指針であり、不変の論拠なのだ。日本精神の不文律に則り、現下国情を覆うどす黒い共産主義、無政府主義という毒を払い、本来の清冽で雄渾なる日本を取り戻そうではないか」
 公威の演説は賛嘆(さんたん)の風を受けた。楯の会隊員の心に、机上の空論ではない、
「祖国防衛」
 の士魂(しこん)が宿った一日だった。
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