剣と日輪
 必勝は愉快そうに能登の海の幸を咀嚼しながら、大口を開けている。
「三島由紀夫には会ってみたいけどな」
「そうか。俺は三島先生の事殆ど知らんかったわ。御前知ってんのか」
「そりゃ有名人やからな。一通りの事は知ってる」
「三島先生は百年に一度の英傑さ。俺は三島先生に命を預けた。そうしても余りある方だ。入会してみろ」
「そうか。じゃ考えとく」
「入りたくなったら此処へ電話しろ」
 必勝は真新しい名刺を手交した。
「楯の会学生長か」
 茂は必勝の威容に、はっとしてしまった。
(ただの快活なあんちゃんだったのに。まかやんには何か分からんけど、鬼気が宿り始めてる)
 と茂は不安を覚えている。それはオブラートに包まれてはいるが、所々はみ出しており、
(一体どうしたのだろう)
 という危惧を抱かざるを得ないようなものだった。
 
 必勝が翌日茂のアパート前で、
「又な」
 と手を振った際、その影像が日の光に包み込まれ久遠(くおん)の彼方へ去っていくような妙な感じだった。
 茂は必勝の危うい前途を予感したが、
(俺は何を思ってるんだ。まかやんはまかやんではないか)
 と打ち消したのだった。

 クリスマスイヴに楯の会隊員五十名は、自衛隊習志野駐とん地第一空挺団に一日体験入隊をした。落下傘降下予備訓練を行ったのである。リフレッシャーコースの総仕上げ、といったところだった。訓練後公威は必勝以下を駐とん地内の教場に集合させ、厳つく訓示を垂れた。
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