剣と日輪
 と必勝に対する評価をやや下げたりしたのだった。
「何してんの?」
「おお。宮崎」
 振り返った必勝の両頬は、こけている。宮崎は豊頬(ほうきょう)の必勝しか知らなかっただけに、異態に映った。
「真青だな。忙しいのか?」
「ああ。まあな」
「山本に聞いたぞ。御前は昔話ばかりしてたって」
「昔話?」
 必勝は反論しない。
「何れ皆昔になる。後百年たったら、今ここに居る者は、誰一人残っていない。全ては昔になるのさ」
「何言ってんだ、御前」
 宮崎は以前から、茶化すつもりも無く茶化す必勝の話し振りが鼻にかかる。
「楯の会学生長が、後ろ向きなこと言ったらいかんよ」
「楯の会も何れ無くなるさ」
 必勝は手を振った。
「すまん。急いでる」
「又飲もう」
「連絡する」
 必勝の小太りだった背影がやけに細い。
「体気をつけろ。余り無理すんな」
「有り難う」
 必勝は右手を回し、角を曲がったのだった。 

 十月の楯の会例会の席で、隊員達の間に、
「どうしたら日本人を覚醒させうるか」
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