剣と日輪
 古賀は微苦笑になった。
「命は隊長に預けています」
「よろしい。預かった。すまん」
「自分の意志です。頭は下げないで下さい」
「分かった」
 二人は葡萄酒で乾杯し、最後までやり抜く同志として肩を叩き合ったのだった。

 長月に必勝は疎遠になっていた日学同の連中と、ひょっこり再会していた。楯の会と日学同が同日に市ヶ谷私学会館で勉強会を持つ日があり、宮崎正弘と必勝は館内で遭遇したのだった。
「森田じゃないか」
 宮崎が必勝の背面を、呼び止めた。必勝は日学同には悪感情を持っていない。その証拠に山本之聞を懐かしがり、先日二人で会飲していた。居酒屋でビールを飲み干しながら必勝は盛んに、
「日学同と楯の会は、別に敵対している訳じゃないよな。俺は日学同では評判悪いらしいが、御前とは物別れしたんじゃないし、脱退も御前は認めてくれた。俺達は同じ憂国の士だ。別にいざこざなんかないよな」
 山本は、
「そのとおりさ」
 と合意してやった。楯の会も日学同も目標は、
「日本独立」
 である。国家の体を成していない祖国を、自国民の手中に取り戻す事だけである。
「御前は相変らず好い奴だな。今夜は俺の奢りだ」
 必勝は懐古的な雑談に終始した。山本は、
(昔話をする為に呼び出したのか。楯の会は余程暇と見える)
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