剣と日輪
 の鳥鍋をつつきながら、内閣法制局参事官という顕職にある五歳下の実弟に公威は、
「俺に万が一の事があったら、後の事は御前に頼む」
 と何度も酌をしてやった。
「こっちこそ、俺にもしもの事があったら頼むよ」
 千之はそう言い返して、返酌を欠かさない。
「まあ、二人とも家族の面倒を擦(なす)り合ってるわ」
 千之夫人が渋面(じゅうめん)になると、瑤子が、
「私が万一の時は、全部面倒見るわ」
 と請け負った。
「そうか。頼むぞ」
 公威は破顔一笑、低頭した。千之も同様である。
「男って駄目ねえ」
「そうなのよ。女は自立しなきゃ。二人で頑張りましょう」
「はい。御姉さん」
「参ったなあ。女は強いよ」
「兄貴。男の時代は終ったね」
 公威と千之は頭を掻き掻き、各々の愛妻に酒を注いだのだった。
 席上公威の長子威一郎が言う事を聞かず、やんちゃを繰り返したので、公威の癇癪玉に火がつき、ついつい怒鳴ってしまった。威一郎は、
「父ちゃんなんか大嫌い」
 と不貞腐れ、公威の側に寄らなくなった。威一郎とは擦違いの日々が続き、スキンシップもろくろく取れなかった。
「そうか。父ちゃんが嫌いか」
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