剣と日輪
諸子ノ光栄アル前途ヲ祈ル
一、
妹美津子、弟千之ハ兄ニ代リ
御父上、御母上ニ孝養ヲ盡(つく)シ
殊ニ千之ハ兄ニ続キ一日モ早ク
皇軍ノ貔貅(ひきゅう)トナリ
皇恩ノ万一ニ報ゼヨ
天皇陛下万歳

(三島瑤子・藤田三男編新潮社刊写真集三島由紀夫より)

 衰弱した病体に鞭打ち、どてらを着込んだ倭文重が、皇軍の兵卒たる我が子の門出を祝わんと玄関先にからくも立礼した場景は、無上の悲戚(ひせき)のシーンであった。
「では、行って来ます」
 公威はファミリーに拝礼をし、背を向けた。
「お兄ちゃま万歳」
「万歳」
 という美津子と千之の声援、それに倭文重の哀心を胸府(きょうふ)に刻印しながら、公威は振り返ることなく、前進した。
(ここに帰る日は、あるまい)
 公威は月光に照らし出された梓の影を踏締めながら、厳(おごそ)かに道を突き進んで行った。

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