剣と日輪
 の伊達宗克になっている。
「明日の市ヶ谷の例会を、先生は所用で欠席される。俺も出れん。この二人が市ヶ谷会館に来る手筈になってるから、二人が来たら封書を渡してくれ」
「そうか」
 田中は大人しく指示に従う。任務は黙って遂行すればよく、理由等詮索しないのが、掟だった。田中は、
「昨夜何処へ行ってたのか」
 さえ問わない。ルームメイトの二人の間には、互いのプライバシーに口を挟まない暗黙のルールが存在している。
 必勝と田中は酔いにふらつきながら、小林荘八号室に帰室した。田中はそのまま寝入ったが、
「最後の夜」
 を惜しむ必勝は寝つけない。再び戸外へ出、新宿の繁華街から、
「恋人」
 に電話をかけた。彼女は深夜バーのレジ係なので、仕事が退ける頃合だった。二人は八つ時の新宿を連立って歩む。ビル風がやがて野分となり、二人を包む。
「俺は君が好きや」
 彼女のアパートの前で、必勝は彼女を抱いてキスをした。
「あたしも」
 彼女はキスを返した。
「寄る?」
 必勝は頷きそうになったが、
「否。今日は疲れたろ。ゆっくり休み」
 と肩を抱いた。
「そう。じゃ今度の日曜においで」
「うん、必ず」
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