剣と日輪
「七生報国」
 の文字の真ん中に日輪を描いてある鉢巻を額に締め、白色の手袋をしていた。
(集まってやがる)
 檄文の垂れ幕を垂らし、檄文を撒く必勝の眼下には、
「一体何なんだ」
 という不審な面持ちの自衛官達が群れていた。凡そ八百名はいるだろう。大部分が通信、補給等に従事する非戦闘員だった。九百名に及ぶ第三十二普通科連隊は、百名の留守部隊を残して富士演習場へ西下していたのである。彼等の目線は、胡散(うさん)臭いものを眺める時のものだった。上空には報道陣のヘリコプターが、旋回している。
(彼等は決起などしない)
 必勝はそう観念した。中へ戻ると、緊張している公威の睛(しょう)に、合わせる顔が無かった。公威は必勝に、
「一緒に出よう」
 と促した。小川、古賀、小賀に、
「此処を頼む」
 と依命(いめい)するやすっくとバルコニーに出た。必勝も日射の下に出でた。時刻は正午前である。霜月下旬にしては目の眩(くら)むような、天照であった。
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