剣と日輪
というテロップに我が目を疑った。
(乱入?乱入したのか?)
梓は茶を一飲しながら、彼是と先走った。
(逮捕は時間の問題だろう。警察関係省庁に妻や千之と手分けして、御百度参りをせねば)
次いでニュースは、
「三島由紀夫が割腹」
と報道した。
(腹を切ったのか。だが医学の発達した今日なら助かる見込みもあろう。早く病院へ運んでくれればいいが)
梓がぼおっとした頭でテレビに釘付けになっていると、
「介錯により三島由紀夫が死亡」
と流れた。
梓は、
「介錯」
を、
「介抱」
と誤読し、
(介抱したのに救けられなかったか。藪医者め)
と切れた。灰皿の吸殻を庭にぶちまけたかと思いきや、別のバンドを箪笥から取り出してズボンを締めなおしたり、落ち着こうとしたのか新聞を見開いて、広告にじっと見入ったり思慮分別の無い行為を繰返した。電話は鳴りっ放しで、来客も引切り無し。その内倭文重も帰宅し、玄関で力尽きて突っ伏してしまった。梓は居間に妻を運び、夫婦で慰め合い、励まし合い、揺蕩(たゆと)うたのである。瑤子は外出先のカーラジオで、事件を聞き知ったのだった。
川端康成は鎌倉市長谷の自宅で公威の自刃を知るや上京し、市ヶ谷駐とん地に駆けつけた。どうにもなるものではなかったが、止むに止まれなかったのである。立ち眩みそうであったが、沈み切った平岡家の人々を支えて葬儀委員長を務め上げている。
(乱入?乱入したのか?)
梓は茶を一飲しながら、彼是と先走った。
(逮捕は時間の問題だろう。警察関係省庁に妻や千之と手分けして、御百度参りをせねば)
次いでニュースは、
「三島由紀夫が割腹」
と報道した。
(腹を切ったのか。だが医学の発達した今日なら助かる見込みもあろう。早く病院へ運んでくれればいいが)
梓がぼおっとした頭でテレビに釘付けになっていると、
「介錯により三島由紀夫が死亡」
と流れた。
梓は、
「介錯」
を、
「介抱」
と誤読し、
(介抱したのに救けられなかったか。藪医者め)
と切れた。灰皿の吸殻を庭にぶちまけたかと思いきや、別のバンドを箪笥から取り出してズボンを締めなおしたり、落ち着こうとしたのか新聞を見開いて、広告にじっと見入ったり思慮分別の無い行為を繰返した。電話は鳴りっ放しで、来客も引切り無し。その内倭文重も帰宅し、玄関で力尽きて突っ伏してしまった。梓は居間に妻を運び、夫婦で慰め合い、励まし合い、揺蕩(たゆと)うたのである。瑤子は外出先のカーラジオで、事件を聞き知ったのだった。
川端康成は鎌倉市長谷の自宅で公威の自刃を知るや上京し、市ヶ谷駐とん地に駆けつけた。どうにもなるものではなかったが、止むに止まれなかったのである。立ち眩みそうであったが、沈み切った平岡家の人々を支えて葬儀委員長を務め上げている。