剣と日輪
 と推察し、洗面所に向かった。邦子と鉢合せとなり、そのまま朝の挨拶に三谷家の宿泊しているルームへ向かった。廊下で公威が、
「昨夜のサイレン凄かったよね」
 と水を向けると、邦子は、
「え?」
 と訝しんだ。
「サイレンなんか鳴りました?」
「えっ」
 公威は不審の声を発せずにおれない。
 客室では邦子の直下(すぐした)の妹が、サイレンの響に馬耳東風(ばじとうふう)であった、邦子の豪胆振りをからかった。
「お姉様ったら、あんなに鳴り響いてた警報に全く気付かないで、高鼾(たかいびき)で寝てたのよ」
 すると一番下の妹までがにこにこしながら、
「気付かなかったのお姉様だけよ。私でも気付いたのに」
 と暴露した。園子は赤面し、二人の妹に反撃した。
「高鼾(たかいびき)ですってえ!証拠を見せなさい証拠を!」
 邦子は右拳で拳固を作って二人を脅した。
「そんな事言って。後で後悔するわよ!」
 公威は眼前で繰広げられる女の野性味に、温か味のある光波(こうは)を感受していた。三姉妹の口喧嘩は、三谷夫人の鶴の一声でぴたりと収拾(しゅうしゅう)した。
 公威達の一団は、駅からハイヤーを雇い、榛名山を見上げる兵舎に至りついた。兵営は会面の家族連で満杯だった。公威達がホールで三谷を待ち惚(ぼう)けていると、やがて士官候補生の制服姿の三谷が、現れた。
 三谷家の女性達と一通り再会を祝した三谷は、学生服の公威に近付き、握手を求めた。
「久し振りだなあ」
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