剣と日輪
 という余韻を残して、スタンドの灯を消して床に就いた。
(よく喋る親仁(おやじ)だなあ)
 公威は無口な方なので、
(この人とは気が合わん)
 と大庭に背を向けた。大庭は寝息を立てている。
(やっと邦子の事を考えられる)
 公威は気になってしょうがなかった邦子との今後を想味(そうみ)しようとしたが、睡魔に襲われ、何時しか夢寐(むび)の異空(いくう)に誘(いざなわ)われていった。
 
 夜気が引き裂かれて行く。それはうねりを弥(いや)増している。公威は漸(ようや)くその夢(む)徴(ちょう)が空襲警報だと判別できた。
 公威が上半身を起こすと、大庭は既に站(たん)している。
「空襲警報だ。何処かな」
 暗がりではっきりとはしないが、大庭の面上は険しい。
 公威は耳を澄ませた。可也遠方に思える。
「何処でしょう」
 公威は兎に角熟睡したい。
「矢でも鉄砲でも持って来い」
 といった捨鉢(すてばち)の心意で、布団に潜り込んだ。
 大庭は帝大生の潔さに唖然となったが、暫しの立往生後、公威を見倣って就寝した。
 
 翌朝は面会時間に合わせて六時起きだった。公威が目覚めると、大庭は依然寝入っていた。
(遅かったのかな)
 公威は、
(大人だから自分で起きれるだろう)
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