剣と日輪
仮面の告白編鎌倉
 昭和二十一年が、昭和天皇の自発的意志による神格化否定の詔書(しょうしょ)、
「天皇人間宣言」
 でスタートした。誰も天皇を、
「人間ではない」
 と誤(ご)見(けん)していなかった上に、こんな珍妙な宣言を告文(こくぶん)されては、とんだ笑い話であろう。
 公威も、天皇に奇妙な説示(せつじ)をさせるマッカーサーの遣(や)り口には、
(毛唐には、何も分かっちゃいない)
 と苦々しいばかりであった。大多数の日本人が昭和天皇の声明を解義(かいぎ)できず、GHQ
を軽蔑したであろう。
(アメリカ人は、天皇の独裁から国民を解放した気にでもなっているのだろう)
 公威はアメリカ人の浅知恵に、
(何でこんな国に負けたのか)
 と情けなかった。
 GHQは四日になると、軍国主義者の公職追放と、二十七に及ぶ超国家主義団体の解散を指令した。ナショナリズムは、統治国アメリカにとって、至極(しごく)邪魔(じゃま)な思弁(しべん)であった。アメリカは自国民には、
「愛国心」
 を植え付け、
「富国(ふこく)強兵(きょうへい)」
 政策を推進しながら、日本人からは、こうした独立国の国民なら当然保持すべき思(し)惟(い)、政見を根絶して、日本をアメリカの従属国に仕立てようとしていたのである。
 多くの日本人が、マッカーサーの恐るべき、
「骨抜き統治策」
 に洗脳され、
「忠君(ちゅうくん)愛国(あいこく)」
「滅私(めっし)奉公(ほうこう)」
 という美徳を遺棄(いき)していった。独立不羈(ふき)の気概を固持(こじ)した者は、
「右翼」
「反動者」
 とされ、追放、迫害、捕縛の憂目に遭った。

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