剣と日輪
 通された応接室で、公威は木村に対面し、
「岬にての物語」
 をその場で一読して貰った。公威は蒼皤(そうは)面(めん)で静坐し、時折御茶を啜(すす)った。木村はペラペラと頁(ぺージ)を捲(めく)る。
(ほんとに読んでるのか)
 公威は木村の黙読のスピードに、
(これが、川端先生が信頼しているプロか)
 と内心舌を巻いた。緑茶の苦味がよく沁(し)みる。
 木村は徐(おもむろ)に、
「岬にての物語」
 を卓上に降ろした。
「拝見した」
 木村は諸手(もろて)を合わせ、
「中々読ませるね」
 と含み笑いをした。
「ストーリーは、これでいいと思う」
 木村は茶を一服含味(がんみ)すると、
「だが、ここ」
 木村は或る頁を開き、指差した。
「ここからここまでの行は省いた方がいい。その方が中身が締まる」
「そうですか」
 公威は改めて、その数行を瞳人(どうじん)で追った。やがて鉛筆を取出すと、指摘された行全部を線で消してしまった。
「おやおや」
 木村は、
「いいのかい?」
 と呆れ顔である。
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