剣と日輪
「いいです。僕もそう思います」
 公威は原稿をテーブルに戻すと、
「他にもお気付きの箇所がありましたら、教えて下さい」
 と督促(とくそく)した。
(いい度胸だ)
 木村は、文筆家が如何(いか)に自筆のオリジナルに拘(こだわ)るかを知了(ちりょう)している。公威の第一印象は、
「末生(うらな)り」
 であったが、
(どうやら違うようだ)
 と知道(ちどう)した。
「これは気付きだが、余り会話を多くしない方がよい。作品の品格を下げてしまうからね」
「成る程」
 公威は点頭(てんとう)している。
「じゃ、言われるように書き直します」
「そうかね」
 木村は公威に好感を抱いた。
「君は素直だねえ」
「そうでもありません。編集長のアドバイスが当を得ているだけです」
 公威は鋭(えい)美(び)な面貌(めんぼう)で、にこりともしない。
「又来なさい。歓迎するよ」
「有難う御座います」
 公威は、
(これで文壇(ぶんだん)とのパイプが繋がった)
 と心中ほくそ笑んだ。そして退社したのだった。
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