戦国千恋花
声は出ないし、
ここが何処なのかもわからない。

怖い夢は見るし、
頭は虚ろな状態。

おまけに目の前には
私の手をしっかりと握り締め、
熱い視線を送る男性…。
心臓が、早鐘を打つ。

せめて何か言ってくれたら……
こんなに躯が熱くはならないのに。


紅潮して俯き、硬直していると
男は一枚の布を差し出した。

「これを、何処で見つけた?」

静かに、そう聞いた。

それには見覚えがある。―…しかも、鮮明に。

六つの金の銭、
布地の鮮やかな紅。
そして、布に滲んだ
―…紅く、渇いた血。

あの光景が、瞼の裏に
浮かび上がる。
哀しく、痛みを伴って。

息が、出来ない
唇が、がたがたと震える瞳が、
あの少年の死に顔を
今も見つめている。


尋常ではない様子に気付いた男は、
俯く私をそっと腕に包んだ。

「…何を見たのかは、聞かない。気持ちが落ち着くまで、ここにいるから。」

…泣きなさい。
彼はそう言った。


その言葉に私は、
まるでこの世に生まれ落ちた瞬間のように、
泣いた。


彼は私が泣き疲れて眠ってしまっても、
その胸を貸してくれていた。
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