戦国千恋花

少女は祈っていた。

着物から覗く白い手は、
堅く結ばれていた。
揺らぐことのない想いが、
そこには見てとれた。
少女の眼は、信じている者の眼だった。

大切ななにかを見送った者の――…


私はその空間に、ただ浮かんでいた。
夢か現かもわからないその光景を、ぼんやりと眺めていた。
なぜだろう。
彼女の心が、解るような気がした。

真っ直ぐに空を見つめる、強い眼差しを持った瞳の、
何かを信じて待つ彼女の、『弱さ』が。

そう感じた時、
彼女は堅く結んでいた両手を緩め、震えるその手に握られた二つの小さな鈴を見つめた。
『信じたい』。だけど…
不安に押し潰されそうになる時は、ある。
信じていない訳じゃない。なのに…
ごめん、ごめんね。

約束は、
自分が守れるかよりも、
相手が覚えていてくれるか、に
不安を覚えるんだ…。

ようやく彼女は涙を拭い、小さな鈴を胸に仕舞い立ち上がった。
ふと何かの気配を感じたのか、こちらを振り返った。
しかしそこには、ただ一輪の名も無い花が在るだけだった。
少女は「気のせいか…」と呟くと、遠くから彼女を呼ぶ声がした。

「おーーい、しづーーー。何処だぁーーー?」

少女はそんな声を聴きながら、もう一度私の足元に在る花を振り返った。

少女の眼はもう泣き濡れてはいなかった。
「仕方ない…行くか…。」

そう言って少し細めた瞳は、
微笑んでいるような、
愛しい人を見つめるような、

そんな瞳だった。


少し逸る気持ちを抑えたような足どりで
彼女は去っていった。

ふと空を見上げた私は
その、空虚な曇り空を見て――…

なぜか思い出した。
あの鮮やかな光景を…。


あの男の子と、あの女の子は……
なにか繋がりが あるの―…?

あの光景が、目の前の『死』が、
私のココロを削っていく……

怖い
恐い
コワイ


分からない
解らない
ワカラナイ


消えてしまいそう……―――

そう思ったとき、

私は、私を呼ぶ声で目を醒ました。

< 14 / 17 >

この作品をシェア

pagetop