モザイク
父親にはまるで話が見えてこない。市民病院とモザイク。まるで繋がるように思えない。
「今もモザイクに見えるのか?」
カナは首を横に振った。
「ううん、見えない。今はお父さんの顔がちゃんと見えるよ。」
「そうか、仮にその時モザイクに見えたとしよう。それが市民病院とどう繋がるんだ?」
「お父さんは見えた事ないからわからないと思うけど・・・あの世界は普通じゃなかった。全部がモザイクなんだよ。友達の顔も、机も、黒板も・・・。だから・・・気分が悪くなって・・・早退したの・・・。」
「それで市民病院に診察を受けに行ったわけか。」
「ううん、それも違う・・・。市民病院には偶々・・・。」
「偶々・・・?」
「そう。乗り合わせた電車が脱線したの・・・。これ。」
カナはテレビを点けた。すると、カナの言う通り、テレビはそのニュース一色だ。
「これって・・・。そんなの一言も言ってなかったじゃないか。」
「だって、足くじいただけでしょ。そんな言う必要もないかなって・・・。」
「そうは言うが、勝手に帰ってきて良かったのか?てっきりお父さんは事故とは関係ないところの怪我だと思って、気にもしなかったが・・・。事故と関係があるとなると、警察やらなんやらに事情を説明したりしなきゃいけないんじゃないのか?」
「えっ、そうなの?」
「お父さんもこう言うのに遭った事があるわけじゃないからハッキリとは言えない。でも、救急車で運ばれたんだよな?」
「うん、救急車に乗ったよ。」
「なら、カナが病院に来たと言う履歴は残っているはずだ。その様子だと診察後、病院の人には何も言ってないだろう?」
「だって、診察券とか出して行ったわけじゃないし・・・。事故でなった怪我だから、無料なのかなって。」
別に悪い事をしているわけではない。しかし、カナの一言、一言はどこか言い訳じみていた。
「一回、病院に戻ろう。その上で帰って良かったのか確認すればいい。もしかしたらカナがいなくなったと、病院で騒ぎになっているかもしれないからな。」
「わかった。」
ふたりは再び病院に向かった。

この時ふたりは気がつかなかった。さっきカナの点けたテレビのニュースが、脱線のニュースから全く別のニュースに変わっていた事を。
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