モザイク
ドアを開けると、そこにはモザイクがあった。その浸食する速度は驚くべきものだと感じた。
「早すぎる・・・。」
しかし諦めるわけにはいかない。丹沢の言っていたA3診察室を目指した。走った。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・。」
振り返りモザイクの様子を確認する。かなり遠くの方でちらついているのは確認出来るが、ここまで来るのにはまだ時間がかかりそうだ。
そして、診察室のドアを開けた。
「丹沢さん?」
長沢が聞いた。
「いや、違うよ。丹沢は用が出来て、君たちを診察出来なくなった。私はその代わりに診察に来た神宮寺と言う。」
「神宮寺さん?」
「あぁ、そうだ。ただ、診察の前にしてもらう事が出来た。申し訳ないが、ちょっと場所を変更させてくれ。」
「場所を変えるって・・・俺たち、目が見えないんだ。そんなに簡単に言うなよ。」
佐々木が言った。
「あぁ、それはわかっている。でも、ここにいるわけにはいかないんだ。」
その時だ。悲鳴が診察室にも届いた。
「何かあったのか?」
「まぁ、そんなところだ。とにかく、場所を移させてくれ。」
診察室のカーテンを、神宮寺ははずした。そして、その端をふたりに渡した。
「このカーテンにつかまってくれ。引っ張ってふたりを誘導するから。」
丹沢はふたりの手を引いて案内をしてくれた。対して、この神宮寺と言う男の行動はどうなのだろう?長沢は医者としての行動に疑問を持った。
「カーテンにつかまれって・・・。さっき丹沢さんは手を引いてくれたのに・・・。」
「なんだって?それはいつ?」
「この病院に着いた時だよ。俺たちは学校にいる時に目が見えなくなった。その時は先生と丹沢さんが、俺と長沢の手を引いてくれた。けど、先生は授業があるからって、学校に残ったんだ。だから、病院に着いた時には、丹沢さんが俺たちの手を引いてくれたんだ。」
血の気が引いた。
「その先生はまだ学校にいるのか?」
「たぶん・・・。」

神宮寺は、胸ポケットからPHSを取り出し電話した。
「桜井か?」
「じ、神宮寺さん・・・助けて下さい。」
「なんだ、どうした?」
「僕の周りがモザイクなんです。あぁ、もう僕はダメだ。」
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