モザイク
際限なき感染
神宮寺がいた部屋から右側にA3診察室はある。本来ならすぐに向かうところだ。が、何か違和感を感じずにはいられない。左側の視界がちらつくのだ。
「ん?なんだ?」
ほとんど無意識だった。それが逆に驚きを加速させた。左側にある廊下、壁がモザイクになっているのだ。
「なにやってんだっ。」
感染した誰かが、病院の壁にでも触れてしまったのだろう。それは明白だった。怒り、焦り、様々な感情が入り乱れる。呼吸が荒くなった。
そして再び、部屋に戻った。
「丹沢、立ち上がれるか?」
神宮寺の声に、丹沢は驚いた。
「どうした?あいつらの様子を見に行ったんじゃないのか?」
「そのつもりだったんだけどな。それどころじゃなくなった。」
丹沢には神宮寺の表情を伺う術はない。しかし、声の荒立つ様子がただ事ではないと感じさせた。
「いったい、どうしたんだ?」
「びょ、病院が感染した。」
「感染って・・・まさか・・・。」
「冗談を言ってる場合じゃないと思うんだが・・・。」
呼吸を落ち着かせながら言った。
「とにかく逃げよう。ここにはいない方がいい。」
「神宮寺、落ち着け。二次感染はしないと、さっき証明したはずだ。それに俺はすでに感染している身だ。どこにいようが変わらないさ。」
「しかしだな・・・。」
聴診器や衣服がモザイクになるくらいなら、まだ許容も出来た。しかし、病院まるごとモザイクになっていくとなると、完全に神宮寺の許容範囲を超えている。丹沢の仮説も、疑わしく感じた。だから、なおも丹沢を説得した。
「いいから行け。こんな俺をどうやって連れて行く?少しでも誰かに触れれば、それこそ被害者を増やすだけだ。こう言う時こそ、お前は落ち着いて行動するべきだ。」
どっしりと丹沢は構えていた。
その態度に、神宮寺も折れた。
「なにかあればこれを押せ。すぐに駆けつけるから。」
ナースコールを、丹沢の手にそっと置いた。
「わかった。それより、あいつらを頼むな。」
「あぁ。」
神宮寺は再び部屋を出た。
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