モザイク
景色はモザイクに変わっていた
担任が教室に入ってきた。
「ほらっ、席に座れ。」
教室に入るなり、いつものように声をあげた。その声を合図に、ガタガタと椅子や机の動く音が教室に拡がった。
「起立、礼・・・。」
いつもと同じだったのは、ここまでだった。
生徒たちが頭を上げる。すると、ひとりの生徒が叫んだ。
「え、えぇっ。な、なんだ・・・これ・・・。」
「どうした?」
生徒は担任が冷静でが不思議だった。そして、これが自分だけに起きている事なのかと不安になった。
「えっ、先生は、先生はなんともないの?」
不安そうに生徒は言った。
「なんともないって・・・佐々木、お前どうした?」
「み、見えないんだよ・・・。」
「見えない?何が?」
「何もかも・・・。何もかも見えないんだよ・・・。」
佐々木は泣き出した。
「なんで?どうして、急に?」
担任は佐々木の側に寄った。しかし、佐々木にはモザイクが揺れているだけで、何が起きているのか想像もつかない。まさか、担任が自分の側に来たなどと思いもしなかった。
「な、な、何?」
わからない事が恐怖を生んだ。
「佐々木、俺がわかるか?」
「ど、どこ?」
佐々木の目の前に、手を前にやり左右に振って確認した。
「俺はここだ。」
どうやらまるで分からないらしい。それを感じ取り、佐々木の手を取った。
「先生?」
モザイクの中に、赤が強く固まっているところがあった。いつも担任の大江が着ているジャージと同じ色だ。それを頼りにもう一方の手で担任の手を掴んだ。
「なんだ、見えているじゃないか・・・。脅かすなよ。」
担任は言った。
「ち、違うんだよ。見えているんだけど・・・見えていないんだよ・・・。」
「?」
「まるで、何も見えていないわけじゃないんだ。ただ、見えているものがなんだかわからないんだ・・・。」
「もう少し詳しく話してみろ。」
佐々木は担任の手を掴んだまま話した。
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